【開催報告】 ELSI HIROSHIMA ワークショップ 2026
広島大学共創科学基盤センター(ELSI Hiroshima)と大阪大学社会技術共創研究センター(ELSIセンター)は、2026年3月16日(月)から17日(火)にかけて、「ELSI HIROSHIMA ワークショップ2026」を共催しました。本ワークショップは今回で3回目の開催となります。今年度は、昨年度にはなかったエクスカーション、参加者同士のネットワーキング、グループワークを新たに取り入れたことで、より実践的かつ双方向的なプログラムとなりました。
参加者は、受講生21名、講師・話題提供者7名、進行役5名、陪席者22名で構成され、広島大学や大阪大学に加え、北海道大学、東北大学、東京大学、一橋大学、慶應義塾大学、早稲田大学、京都大学をはじめとする多様な大学・研究機関、企業、研究助成機関から参加がありました。分野横断的な背景を持つ参加者が集い、ELSI/RRIに関する多角的な議論と活発な交流が展開されました。
3月16日(月)(1日目)
エクスカーション

初日は、希望者を対象としたエクスカーションから始まりました。NPO法人Peace Culture Villageのガイドによる平和記念公園ツアーがグループごとに実施され、参加者は記念碑や関連施設を巡りながら、被爆の歴史や記憶の継承について理解を深めました。ガイドによる解説に加え、グループ内での対話を通じて、平和や記憶の継承をめぐる多様な視点が共有され、平和を自分事として捉え直す機会となりました。その後、参加者は1945年8月6日の広島原爆投下で被災しながらも、その3日後(8月9日)にいち早く復旧・運行し、復興のシンボルとなった広島電鉄の路面電車に乗車し、会場へ移動しました。
セッション1:講演「ELSI/RRI研究・実践の最新動向」
本セッションでは、ELSI/RRIの基本概念の整理に続き、日本および海外における科学技術・イノベーション政策の動向を踏まえた解説が行われました。特に、日本の科学技術・イノベーション基本計画や、新興科学技術に関する各国の政策事例をもとに、ELSI/RRIの位置付けが示されました。講演では、ELSI/RRIを考えるうえで重要な視点として、社会課題の要素分解、AIをはじめとする新興技術への継続的な関心、さらにジェンダード・イノベーションの観点を踏まえつつ、日本の社会的文脈に即した制度や実践を構築していく必要性が強調されました。質疑応答では、人文社会系の基礎研究とELSI/RRIとの接続、ELSIセンター設立に伴う課題、政策評価のあり方、研究費申請におけるELSIの位置付けなど、多岐にわたる論点について活発な議論が交わされました。
セッション2:参加者自己紹介
本セッションでは、参加者全員が自身の所属、研究テーマ、関心領域などについて、1〜2分程度で紹介を行いました。多様な専門性や問題関心が共有されることで、参加者同士の相互理解が促進され、今後の共同研究やネットワーク形成の基盤となる機会となりました。
セッション3:グループワーク「ELSI研究のプロジェクトを考える」
参加者は複数のグループに分かれ、ELSI研究の共同プロジェクトを設計するというテーマに取り組みました。各グループでは、研究テーマの設定、社会的必要性の整理、専門性に基づく役割分担、分野横断的な連携のあり方について議論が行われ、最後に代表者が成果を発表しました。
提案されたテーマには、人工子宮技術に関するELSI、マイノリティの実態調査、科学研究における説明責任、アバターを用いたカウンセリングの倫理、AIアートのELSI、アカデミアにおけるメンタルヘルスなど、現代社会における多様な課題が含まれていました。
3月17日(火)(2日目)
セッション4:グループワーク「ELSIワークショップーELSI論点の抽出ー」
本セッションでは、「AI合成語り部」をテーマとして、記憶の継承とAI技術の活用をめぐるELSI上の論点を抽出しました。冒頭では、語り部の減少や資料保存の課題に対する対応策として、AIを活用したデジタル語り部の可能性が提示される一方で、記憶の捏造や倫理的リスクといった問題も示されました。
グループワークでは、「モラルITデッキ」と呼ばれるカード形式の対話ツールを用いた手法が採用され、参加者は技術開発者、戦争体験者・遺族、現代世代、将来世代の4つの立場に分かれ、それぞれの視点から重視すべき価値や技術がもたらす影響を抽出しました。各グループは、抽出した価値や影響をポジティブ/ネガティブの両面から整理し、優先順位を付したうえで発表を行いました。

議論では、尊厳、正確性、信頼、アクセシビリティ、予防原則、プライバシー、代表性など、多様な価値が浮かび上がり、同じテーマであっても立場によって評価軸が大きく異なることが確認されました。本セッションは、ELSI的思考の出発点となる「価値の可視化」を体験的に学ぶ機会となりました。
セッション5:話題提供「ELSI/RRI分野におけるキャリアパス」
最終セッションでは、医療、倫理学、企業、URAなど多様な立場からELSI/RRIに関わる実務家・研究者が登壇し、それぞれのキャリア形成や実践について紹介が行われました。
その後のパネルディスカッションでは、海外と日本におけるELSI研究の違い、倫理学の役割、企業におけるELSI人材 の需要、URAの役割、研究と実務の接続など、多様なテーマについて議論が展開されました。

登壇者からは、キャリア形成においては人とのつながりを大切にすること、研究の文脈において自らの立場を客観的に捉えること、分野横断的な協働において自分と相手の立場の境界を意識することの重要性が共有されました。また、ELSI/RRI研究は決して一人で完結するものではなく、継続的な実践と協働が不可欠であることが繰り返し強調されました。さらに、研究資金や産業動向の観点からも、ELSI/RRI分野に対する社会的需要は今後さらに高まっていくことが示唆されました。
今後に向けて
本ワークショップでは、エクスカーション、グループワーク、ネットワーキングといった新たな企画を導入したことで、昨年度以上に、参加者が主体的に議論に関わる機会が大きく広がりました。とりわけ、異なる専門性や立場を持つ参加者が協働しながらELSIを検討するプロセスは、実践的な学びの場として大きな意義を有していました。

ELSI/RRIは、急速に発展する科学技術と社会とを接続するための重要な枠組みとして、その必要性をますます高めています。本ワークショップは、そのような分野に関心を持つ研究者や実務家が出会い、対話し、連携の契機を得る場として機能しました。
今後も共創科学基盤センターでは、学際的な対話と協働を促進する機会を継続的に提供し、ELSI/RRI人材の育成とネットワーク構築に貢献していく予定です。

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